びーっくりした。
ちょっと気になって、本当はちょっと以上にかなり気になって。
彼の様子を窺いたくて後ろを見たら、あなたがその場にしゃがみ込んでいた。
「ちょっ、どうしたの?」
慌てて彼の傍に駆け寄る。
こんな状況の時女子のは貧血の場合が多いんだけど、男子も同じなのだろうか。
平気、彼はそう繰り返した。
平気って言っても、全く立ち上がる気配はない。
それに、大丈夫って言う人に限って案外そうじゃないケースが多い。
顔色を確認しようにも、腕で隠れて見えない。
しゃがんで腕の隙間から覗こうと試みるが、これがなかなか難しい。
左耳の側に黒子が2つある。
新たな発見だ。
きっとこの距離まで彼に近付かないと気が付かない。
そんなに小さなもの。
彼はこの存在を知っているのだろうか。
もしかしたら案外気付いてないのかも。
自分だけの秘密にちょっと興奮。
そんなこと考えてしまう自分が気持ち悪い。
ストーカーかよ、わたし。
はあ。
思わず溜め息。
あなたに聞こえちゃったかな?
反応はない。
なーにやってんだか、自分。
しゃがんだまま、肘を突くようにどんよりとした雲を見る。
ふわり、ふわり。
牡丹雪がゆっくりと、地上に着くまでに消えてしまうのではないかと
心配してしまうほど弱々しく降り立つ。
その中のひとつを手に取ろうと右掌を天に向けると、急にバランスが崩れた。
その拍子に思い切り尻餅をついて痛かったはずだけど、
それよりも右手に繋がれた温かさにただ驚いていた。
「手・・・・・・」
わたしの声と同時にあなたが顔を上げる。
なんて言うか、・・・・・・近い。
ちょっと顔を動かせば肌と肌が触れ合う。
こんな至近距離であなたの傍にいるなんて思いもしなかった。
と言うか、恥ずかし過ぎて顔を背けたいんだけど。
でも、怖くてできない。
それを分かっているかのように彼は振る舞う。
余裕満々、その言葉が似合ういつもの彼だ。
彼のわたしの吐息が顔に触れる。
結ばれたままの手とは違い、ちょっと冷たい。
それでもわたしの鼓動を高める充分な役割を果たしている。
頑張って見つめ返してみる。
負けない、そう心に決めながら。
あー、ヤバい。
早くも断念しちゃいそう。
そんなわたしの心は他所に、彼は平然とこっちを見ている。
真っ黒な瞳。
角度によって姿を変える奥二重。
鼻筋がすうっと通っている形整った鼻。
きゅっと結ばれた口。
愛しい。
好きとか愛してるとかそんな言葉より、これが一番しっくりくる表現。
あなたが好きです。
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