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  <title>O³ notebook</title>
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    <item>
    <title>*04.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">六月六日は高校の文化祭であると同時に、優絵の彼氏である坂井くんの誕生日だ。<br />
坂井くんもこの高校を受験したのだが、<br />
希望していたわたしや優絵がいる特進クラス選抜に洩れてしまった為、<br />
地元の公立高校に進学してしまった。<br />
<br />
「おかえり」<br />
<br />
昼休憩を終えて教室に戻ると、クラスのみんなとは違った制服を着ているが、<br />
すっかりこの場に馴染んでいる人影があった。<br />
<br />
開いた口が閉まらない。<br />
こういうことを指すのだろうか。<br />
突然彼の登場に、わたしも優絵も教室に入れずにいた。<br />
<br />
「ここでなにしてるの？」<br />
<br />
先に口を開いたのは優絵の方。<br />
優絵も彼が来ることは知らなかったようで、驚きを隠せない様子。<br />
<br />
「なに、って文化祭に来たんだけど」<br />
<br />
優絵の疑問にけろっとした顔で答える。<br />
文化祭に来たんだけどなにか問題でも、とでも言いたそうに。<br />
<br />
「だって今日は部活あるから会えないって、電話で・・・・・・」<br />
<br />
周りのギャラリーを気にしてか、優絵の口を動きが止まった。<br />
<br />
「言いかけられると、気になるんだけど」<br />
<br />
決して怒っている口調ではなく、<br />
むしろ煽るような坂井くんの言葉に優絵は顔を真っ赤にし、<br />
着なれない衣服に構うことなく、走るように教室を出た。<br />
<br />
彼女を追いかけようと続いて教室を出ようとしたら、「待った」の声がかかった。<br />
<br />
「もう交代の時間なのに、売り子が二人も抜けたら困るって」</font></p>
<p><font color="#000000">そうわたしに注意するのは同じクラスの藤木。<br />
今回クラスの出し物のチーフ的存在で、会計を担当している。<br />
藤木も同じ奥薗中学出身で、わたしと優絵とは中三の時に同じクラスだった。<br />
<br />
「そうだけど、優絵のことが気になるし」<br />
<br />
そうわたしが言った時、<br />
「おれが行くから」とぽんっと坂井くんがわたしの肩を叩いて立ち上がった。<br />
<br />
「元々はおれのせいだし。<br />
なだめて来るから、南澤はここで仕事してて」<br />
<br />
「な？」と念を押した後、特に急ぐ様子もなく、優絵が走って行った方向に歩いて行った。<br />
<br />
「なんか格好良くなったよな、あいつ」<br />
<br />
思わず藤木の声に頷く。<br />
確かに前から恰好良かったけど、なんていうか、貫禄が出てきたって感じだ。<br />
焦っているわけでも冷めているのでもなく、余裕が滲み出ているのが分かる。<br />
十五、六であれだけの人はあまりいないのではないだろうか。<br />
友達の彼氏なのに、一目見ただけで惹かれてしまう自分は本当に不謹慎な女だ。<br />
<br />
「ねえ、遅くない？」<br />
<br />
二人が行ってしまったからもうすぐ二時間が過ぎようとしていた。<br />
ピークも過ぎ、客足も徐々に少なくなってきた。<br />
<br />
「仲直りでもして、よろしくやってんじゃない」<br />
<br />
商品である餡蜜を口に運びながら、売り上げを数える藤木。<br />
いかにも興味なさそうな態度。<br />
<br />
文化祭終了まであと一時間弱。<br />
ローテーションを組んでの店番だったはずだが、<br />
久々の友人との再会やお祭りムードに流されたのか原因は分からないが、<br />
結局当番制を守ったのはごく少数で、<br />
午後の部はわたしと他数名がボランティアでなんとか回した。<br />
もちろんサボりの多くは、奥中出身の生徒だとは言うまでもない。<br />
<br />
最後の客が出て行き、教室にはわたしと藤木、それから松本さんと江上さんが残った。<br />
客も出払ってすることがなくなったので、女子二人に銃に遊びに行くようにと促すと、<br />
一瞬躊躇していたようだが、「お疲れさまです」と嬉しそうに出て行った。<br />
<br />
「他校生は腰が低いよね」<br />
<br />
二人を見送りながらなんとなく思った。<br />
考えてみれば、自分の時間着でも手伝ってくれたのは、<br />
ほとんどが奥中出身以外の生徒だった。<br />
奥中出身の子はまとまりはあるが、責任感はゼロに等しい。<br />
「そうだな」と、科学雑誌を読みながらの生返事。<br />
本当に藤木は昔から他人に興味がなさそうだ。<br />
<br />
「そう言えばさ、中学の時に一時期噂あったよね。<br />
藤木と優絵が付き合ってる、って」<br />
</font></p>
<p><font color="#000000">腐れ縁とはこういうことを言うのだろか。<br />
わたしと優絵、それから藤木は中学一年の時から四年間ずっと同じクラスだ。<br />
ヒラカワとフジキ。<br />
二人の出席番号は近く、なにかと二人が喋っていたのが記憶に残る。<br />
<br />
<br />
<br />
</font></p>
<p>&nbsp;</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>*03.　　　*05　　　幾億のキセキ・トップ<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>幾億のキセキ</category>
    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E5%B9%BE%E5%84%84%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%82%AD/-04.</link>
    <pubDate>Thu, 01 Apr 2010 11:29:12 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/23</guid>
  </item>
    <item>
    <title>*03.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">このキャンプファイアよりも信憑性が薄いが、<br />
ウチの中学にも縁結びに纏わる伝説がいくつかあった。<br />
その中の一つ、体育祭の時に生徒全員が頭に巻くハチマキを好きな人に作って渡せば<br />
想いは通じる、というものが生徒の中で最も知れ渡った伝説だった。<br />
使用するハチマキは通常学校側から渡すので、実際挑戦する人は少ないと思うが、<br />
作らなくても渡すだけでも可能という説や、使用済みのハチマキをもらうという説もある為、<br />
本当のところはよく分からない。<br />
<br />
ただ、ほんの少しの可能性でも縋りたかったわたしは、毎晩ハチマキを縫い、<br />
何本が出来上がった中で一番上手くできた物を渡すことにした。<br />
通学鞄の内ポケットに大事にしまった、体育祭前夜の出来事。<br />
その夜は眠りに就くことができなかった。<br />
<br />
「泣いてんの？」<br />
<br />
突然後ろから声がした。<br />
人気のない場所と思って、キャンプファイア付近からは死角になるここを選んだのに。<br />
回想と中のわたしにはいきなり現実に戻ることは困難で、<br />
彼の第二声でようやく振り向くことができた。<br />
<br />
「こんな場所で、しかも一人でなにしてんの？<br />
もしかして誰か呪ってる？」<br />
<br />
「呪ってません！」<br />
<br />
なに、この失礼なやつ。<br />
はっきりと反論すると、見知らぬ男子はくくくっと声を殺して笑った。<br />
<br />
「失礼ですけど、あなた誰ですか？」<br />
<br />
身長体重はともに平均くらいで短い黒髪。<br />
片手には赤かオレンジのような明るい色の携帯電話を手にしている。<br />
見覚えが全くないということは同じ中学校出身ではない。<br />
しかもウチのクラスの男子でもない、と思う。<br />
顔見知りでもない人が一体わたしになんの用だろうか。<br />
<br />
「確かに失礼だね。失礼過ぎる質問」<br />
<br />
うんうん、と頷きながら失礼だと連呼する男。<br />
目の前の人の態度を上から目線で、どこか人をおちょくっているような口調にカッチーンときた。<br />
<br />
「失礼なのはそっち！<br />
いきなり呪っているのかなんて訊かれて、気分悪くならない人がいるわけないでしょ」<br />
<br />
興奮し過ぎて、つい怒鳴るような大声になってしまった。<br />
「うるせー」と耳を押さえるやつの姿に余計腹が立ったけれど、<br />
同時に今の声を誰かに聞かれたのではないかと、急に恥ずかしくなってきた。</font></p>
<p><font color="#000000">「けど実際呪ってたじゃん、前」<br />
<br />
静かに聞こえた言葉。<br />
呪ってた、って誰が？　前、っていつのこと？</font></p>
<p><font color="#000000">「勝手なこと言わないで。わたしは陰陽師とか占いに興味ないし、<br />
非科学的なことは信じない質なんだけ・・・・・・」<br />
<br />
非科学的なことは信じない。<br />
確かに今そう言ったけど、本当に？<br />
過去に自分の恋愛を神頼みしていた人間が言える言葉だろうか。</font></p>
<p><font color="#000000">「なに、思い出したの？　自分が呪ってたこと」<br />
<br />
こいつはまだ飄々とそんなことを言い抜かすか。<br />
だいたいこの男子は誰なのだろうか。<br />
きみの過去を知っているよ、などといかにもそう言いたさそうないわく付きの微笑み。<br />
その顔の裏側になにが潜んでいるのか正直不気味だ。<br />
<br />
「伝説ってなに？」<br />
<br />
突然男が訊いてきた。<br />
話が飛び過ぎてなんのことか分からなかったわたしに、<br />
「さっきクラスのやつ等が騒いでたから」とぶっきらぼうな口調で彼は付け加えた。<br />
人に散々厭味ったらしいことを言っといて、伝説なんかに興味あるんだ。<br />
わたしは上から目線で、「しょうがない」という風にキャンプファイアの伝説を説明した。<br />
途中彼がわたしの話を茶化すだろうと予想していたが、意外にも男は静かに全部聞いていた。<br />
<br />
好きな人でもいるのだろか。<br />
可愛いところもあるじゃん、などと考えていると急に目の前の男は笑顔になった。<br />
<br />
「じゃあ、ここで告白しても効果はあるよね？」<br />
<br />
・・・・・・は？<br />
自分の耳を疑う。<br />
今彼はなんと言ったのだろう。<br />
<br />
「今からその愛の告白するからさ」<br />
<br />
「誰に？」とわたしが訊ねる前に、彼が一歩一歩とこっちに近付いてきた。<br />
<br />
「ちょっ、冗談はやめてください」<br />
<br />
彼と並行になるようにわたしも後退りをするが彼の歩幅の方が大きいようで、<br />
その場を離れようとするわたしの腕はすぐに捕えられた。<br />
<br />
硬直。<br />
まさに自分の体が固まって動かなくなってしまった気がした。<br />
<br />
彼と目が合う。<br />
一点の曇りもない視線がこっちに浴びせられる。<br />
本当にこの人は誰なのだろうか。<br />
この状況をどう処理しようか、人生初めての出来事にただ混乱していた。<br />
</font><font color="#000000"><br />
その時、ブブブブッと彼の左手に握り締められていた携帯電話が鳴った。<br />
二人の沈黙に名前通りのバイブ音はこの空気を振動させた。<br />
<br />
「電話鳴ってます、が」<br />
<br />
それじゃあ、と彼の手を振り切ろうと試みたが逆に強い力で引っ張り返され、<br />
わたしは一気に彼の腕の中に閉じ込められた。<br />
<br />
「ちょっ！」<br />
<br />
その腕から逃れようと懸命に抵抗するがそれは全くびくともせず、<br />
わたしは身動きができないまま、ただバイブ音を聞くしかできなかった。<br />
<br />
これからどうなるんだろう。<br />
まさか殺されて遺体を林の奥に捨てられたりして。<br />
近頃の物騒な事件を思い出し、体がぞくっと震えた。<br />
明日の新聞には一面に「女子高生合宿中に行方不明」という記事が載り、<br />
そして明後日には「山林で遺体発見」とかになったりして。<br />
今の状況から考えてこれらがただの妄想じゃない気がして、急に怖くなった。<br />
<br />
長い間鳴り続いていたバイブ音が止んだ。<br />
それと同時にわたしを拘束していた腕の力が緩んだのが分かった。<br />
<br />
恐る恐るその腕から離れるが、彼はなにも言おうとはしない。<br />
<br />
「きゅっ、うになにするんですか！」<br />
<br />
自分が思っている以上に動揺しているみたいだ。<br />
声が震え、恥ずかしくも裏返ってしまった。<br />
言い返すなら言い返してみろ。<br />
言葉や心では強気なのに、体は恐怖で怯えている。<br />
体は正直だ。<br />
<br />
ぎしゅ、と土を踏む彼の足音が聞こえる。<br />
来るかと構えていると、「んじゃ」と彼は何事もなかったように過ぎ去るポーズを取った。<br />
<br />
「え？」<br />
<br />
予想不可能の彼の行動に呆気を取られるわたし。<br />
そんなことを知る由もなく、彼はキャンプファイアの方向に歩き出していた。<br />
<br />
なんだ、あれは。<br />
追いかけて文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、<br />
自分から関わってなにかされることを恐れて止めた。<br />
<br />
伝説ってなに？<br />
<br />
そんなのわたしの方が訊きたいよ。<br />
伝説なんて大嫌いだ。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</font><font color="#000000"><a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Entry/21/">*02.</a>　　　<a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Entry/23/">*04.</a>　　　<a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Entry/13/">幾億のキセキ・トップ</a></font></p>]]>
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    <category>幾億のキセキ</category>
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    <pubDate>Tue, 30 Mar 2010 06:51:18 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>*02.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">化粧で女は変わるとよく聞くけど、<br />
彼女達を目の前にしたらそう深く実感せすにはいられなかった。<br />
<br />
入浴後、わたしと優絵は火照った体を外気に当ててゆったりとしていたが、<br />
どうやらわたし達が就寝する女子部屋では大変忙しい時間が過ぎていたらしい。<br />
当時の状況を半分愚痴を交えて教えてくれたのは、奥中出身の梨佳だった。</font></p>
<p><font color="#000000">「まず最初にトイレが混んでさ、鏡も使えないし手も洗えない。<br />
あとは外に出て部屋に戻ったら香水臭くって。<br />
もう良い香り、とかってレベルじゃない！　吐き気しかしないんだって」<br />
<br />
そう熱弁する梨佳も瞳が普段より三割増になっていた。<br />
校則では化粧は禁止だが、夜間の火元の近くでは顔を判断しにくく注意できない。<br />
また最終日ということもあり、教師達も口うるさく言うこともない。<br />
それを悟っているかのように、女生徒はここぞとばかりに気合を入れている。<br />
普段は化粧している方が目立つのに、<br />
今は素顔を曝している自分が注目されてしまうという気さえする。<br />
<br />
「いずみはどうなったんだろ。なんか聞いた？」<br />
<br />
わたしは首を横に振る。<br />
でもいずみと仲が良い梨佳に連絡がないのなら、わたしが知ってるわけがない。<br />
いずみとは中学の時に一回同じクラスになったことがあるし、もちろんお互い面識はある。<br />
普通に雑談したりはするけど、同じクラスという以外に接点はなかったし、<br />
学校外で会って遊ぶような仲ではない。<br />
<br />
「んじゃあ、訊いてみよっかな」<br />
<br />
梨佳が携帯電話をポケットから取り出し、メールを打ち始める。<br />
「どうなんだろうね」と隣にいる優絵が囁くように言った。<br />
<br />
上手くいってると良いね。<br />
<br />
呟くようにわたしの口から出た言葉に相槌を打つかのように優絵がにっこりとした。<br />
<br />
メール受信中に送信元である梨佳に電話がかかってきた。<br />
彼女の話している内容から、電話口の向こうはいずみで、<br />
どうやら彼女の想いは実ったようだ。<br />
<br />
「いずみ、告白成功したって！」<br />
<br />
電話を切るや否や、梨佳は周りにいる人全員に聞こえるほどの勢いでそう報告した。<br />
<br />
「良かったね、すごい」<br />
<br />
「本当に？」</font></p>
<p><font color="#000000">「いずみって、あの瀬野いずみ？　誰に告ったの？」<br />
<br />
喜ぶ人、驚く人。<br />
近くにいた違うクラスの子達も一緒になっていずみの結果に騒いでいた。<br />
<br />
「いずみ、本当に良かったよね」<br />
<br />
心から人の幸せを祝福している優絵。<br />
炎の色が反射して彼女の頬をほんのりと染める。<br />
<br />
もしわたしが優絵のように素直だったら、<br />
もしわたしが優絵のように可愛かったら、<br />
もしわたしが優絵のように人の幸せを自分のことのように喜んであげられる人間だったなら。<br />
わたしの想いが叶うチャンスは少しでもあったのだろうか。<br />
<br />
「やっぱりあの伝説は本当だったんだね」<br />
<br />
「だね。羨ましい！」<br />
<br />
「伝説？」と言わんばかりに数人の女子が話に食いつく。<br />
すぐ傍では伝説の話で持ち切りになっていた。<br />
最後にはいずみに便乗して告白しに行くと宣言する子も続出した。<br />
<br />
「伝説ってやっぱり信仰性があるんだね」<br />
<br />
周りの子達の会話を聞きながら優絵が関心してするかのようにそう言った。<br />
<br />
「そう言えば奥中にもあったよね、伝説。<br />
管理棟と教室棟の渡り廊下の掲示板とか体育館倉庫とか。<br />
体育祭の時のハチマキ渡し、ってのも有名だったよね」<br />
<br />
ビクリと体が無意識のうちの梨佳の声に反応していた。<br />
隣をちらりと確認してみると、さっきまでほんのりだった優絵の顔は<br />
いつの間にか真っ赤になっていて、目線は下を向いていた。<br />
<br />
「優絵って去年体育祭の時にハチマキ渡したんだっけ。<br />
あれって噂じゃなくて本当だったの？」<br />
<br />
梨佳の問いに、優絵の顔の熱は更に上昇していっているみたいだ。<br />
<br />
「確かにハチマキの伝説ってみんな知ってたよね。<br />
あたしのお姉もそれ試したクチなんだよ、結果はダメだったらしいんだけど。<br />
優絵、よくやった！」<br />
<br />
いきなり梨佳が優絵の肩をぽんぽんと叩く。<br />
優絵が「ありがとう」と愛想笑い半分嬉しさ半分という感じに笑った。<br />
<br />
そのやさしい顔を見ていたら、急に涙がこぼれそうになった。<br />
<br />
「トイレに行って来る」と咄嗟に思い付いた口実で、急いでその場を離れた。<br />
あのまま優絵の近くにいて、偽りの顔を読み取られるのが怖かった。<br />
<br />
「ダメだな」<br />
<br />
自分に言い聞かせるように、ぼそりと呟いた。<br />
伝説は嫌いだ。<br />
伝説は好きな人とわたし以外の人を結んでしまったから。</font><font color="#000000"><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Entry/20/">*01.</a>　　　<a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Entry/22/">*03.</a>　　　<a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Entry/13/">幾億のキセキ・トップ</a></font></p>]]>
    </description>
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    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E5%B9%BE%E5%84%84%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%82%AD/-02._21</link>
    <pubDate>Thu, 25 Mar 2010 03:47:43 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/21</guid>
  </item>
    <item>
    <title>*01.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">南澤みなみ。<br />
<br />
これがわたしの本名。<br />
母の再婚を機にまどろっこしい名前に変わってしまっただけで、<br />
中学生までは別の苗字だった。<br />
特別なことじゃない、ただそれだけのこと。<br />
<br />
自分の名前を告げる度に相手は首を傾げるけれど、それも最初だけ。<br />
慣れれば、初対面の人にも名前について少し砕けた話ができるし、<br />
インパクトがあるせいか、比較的名前をすぐに覚えてもらえるという利点もある。<br />
男女関係なしに気兼ねなく「みなみ」と呼んでもらえるし、<br />
全国的にも珍しいフルネームだと、最近では少し誇らしくさえ思う。<br />
<br />
高校生になってもうすぐ一ヵ月が過ぎようとしていた。<br />
生徒同士の交流を目的とした二泊三日の合宿も明日で終わりを迎える。<br />
合宿前からわりと親しみやすいクラスのメンバーだったが、いくつか用意された<br />
レクレーションを通して、確かにみんなの雰囲気がより良くなった気がした。<br />
今夜最大のイベントであるキャンプファイアが待ち遠しいと同時に、<br />
この合宿の終わりを告げるのが少し淋しかった。</font></p>
<p><font color="#000000">「いずみ、今日佐野くんに告るんだって」</font></p>
<p><font color="#000000">こんな類の話が飛び交ったのは、キャンプファイアが始まるちょっと前の浴場の中。<br />
火を点す準備にちょっとした手違いが生じたらしく、<br />
急遽生徒は先に入浴を済ませることになったのだ。</font></p>
<p><font color="#000000">「とうとう告るんだ。長かったよね、片想い期間」</font></p>
<p><font color="#000000">「中二だっけ？<br />
卒業式で告るとか言って、結局できなかったもんね」<br />
<br />
話の中心となっている瀬野いずみは、クラス委員の仕事で忙しく今ここにはいない。<br />
当の本人の不在を差し置いて、浴場は徐々にガールズトークで盛り上がる。</font></p>
<p><font color="#000000">「でもさ、それならミハシも長いでしょ。小学校の時からじゃなかったっけ？」</font></p>
<p><font color="#000000">「ミハシってすきな人いたの？　誰誰？」</font></p>
<font color="#000000">ウチの学校は生徒の半分以上を同じ中学出身の生徒が占めているので、<br />
高校入学前からみんながすでに顔見知り状態、個人情報もすぐ入手できる環境なのだ。<br />
<br />
学校全体の偏差値はとても高いとは言えないが、<br />
特進クラスに行けばそこそこ進学率は高い。<br />
また、私立にしては手頃な学費も良心的で、<br />
なにより卒業した市立奥薗中学校のすぐ傍に立地しているので、<br />
自宅から短時間で通えるのが人気の理由だ。<br />
<br />
そんな背景からウチのクラスも例外ではなく、<br />
奥中出身の子達が入学早々から固まってしまい、<br />
それ以外の学校から来た新入生は肩身が狭く感じるらしい。<br />
そんな状況を脱却させる為に、<br />
学校側はどんな行事よりもこの合宿に一番力を入れているらしい。<br />
<br />
「このキャンプファイアの時に告白したら、三年間結ばれるって伝説あるって知ってる？」<br />
<br />
「本当に？」 </font>
<p><font color="#000000">「あたしもそれ聞いたことある。<br />
あたしの先輩の代は、学年の半分が卒業まで付き合ってたって」</font></p>
<p><font color="#000000">「それってすごくない？」</font></p>
<p><font color="#000000">「だけど、それって卒業したら別れるってこと？」<br />
<br />
さっきまで遠くで聞き耳を立てていただけの奥中以外から来た子達も、<br />
いつの間にか話に加わっていた。<br />
お年頃のわたし達は話が途切れることを知らない。<br />
ましてや、恋愛が絡むとなると会話のテンションも違う。<br />
女子中高生だけに限らず、これはどの世代にも共通する気がする。<br />
もしかしたら、女の人はお喋りせずにはいられない生物なのかもしれない。</font></p>
<p><font color="#000000">「みなみは誰かに告白したりしないの？」</font></p>
<p><font color="#000000">入浴後にジュースを片手に野外で涼んでいると、ふと優絵が訊いてきた。</font></p>
<p><font color="#000000">「なに突然？<br />
わたしにすきな人がいないって優絵知ってるじゃん」</font></p>
<p><font color="#000000">変なの、と笑ってみる。<br />
つられたように優絵も小さく笑う。<br />
これで良いんだ。<br />
真実を全て話すことが友達だとは思わないから。</font></p>
<p><font color="#000000">「写メ撮ろうよ。夕涼み記念に」</font></p>
<p><font color="#000000">「嫌だよ。髪ボサボサだし、顔もお風呂入ったままだし」</font></p>
<p><font color="#000000">「ウチ等はいつもすっぴんなんだから変わんないって」</font></p>
<p><font color="#000000">そう言ってわざと自分の頭をボサボサに荒らした後、<br />
優絵の髪にも手を伸ばした。<br />
きれいな長い髪の毛をボサボサにされた優絵はもう笑うしかなくて、<br />
素直に携帯電話の内蔵カメラに目線を向けてくれた。<br />
カシャッというシャッター音の後に、怪しい二人の姿が画面に映し出された。<br />
<br />
「ねえ、優絵」<br />
<br />
カメラを意識して笑っているわけではなく、むしろ写真を撮ることに躊躇していたのに、<br />
画面の中にいるやさしい表情の女の子から、「ん？」とやわらかい声がした。<br />
<br />
「好きだよ」<br />
<br />
一瞬の間の後、「なにそれ」と小さく笑い出す優絵。<br />
<br />
「いきなりだね」<br />
<br />
「うん、いきなりだよ。アイノコクハク」<br />
<br />
意味分かんない、と優絵がわたしの右肩に軽く体当たりしてくる。<br />
わたしも「どーん」と自分の口で効果音を放ちながら、優絵に体をぶつける。<br />
<br />
同じ県内でも郊外に来たこともあり、空気が澄んでいて星がきれいだった。<br />
<br />
「星きれいだね」<br />
<br />
「そうだね」<br />
<br />
多くの言葉を交わさなくてもわたし達の空気がぎくしゃくしないのは、<br />
二人が今まで積み重ねてきたものの証。<br />
居心地良く、気付いた時には手放したくない存在になっていた。<br />
<br />
流れ星見れないかな、と優絵が呟いた。<br />
もし今わたし達の前を星が流れたなら、彼女は一体なにを祈るのだろうか。<br />
わたしの願いは、優絵とのこんな関係がずっと続くこと。<br />
その願いの裏側に無意識のうちに隠そうとしているものを、わたしは見たくなかった。<br />
</font><font color="#000000"><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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    </description>
    <category>幾億のキセキ</category>
    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E5%B9%BE%E5%84%84%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%82%AD/-01._20</link>
    <pubDate>Thu, 25 Mar 2010 03:44:26 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/20</guid>
  </item>
    <item>
    <title>*03.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">「彩七ちゃん？」</font></p>
<p><font color="#000000">同じ学校の友達からお誘いがあったので、<br />
今日はお昼過ぎから出かけることにした。<br />
お母さんも邪魔者がいなくなるので、「行ってらっしゃい」と快く見送ってくれた。</font></p>
<p><font color="#000000">来週から始まる新しい学校生活に備えた買い物を<br />
満足に済ませ、夕方わたし達は別れた。<br />
電車を降りて改札口を抜けたところで後ろから名前を呼ばれた。<br />
顔を見てほんの一瞬誰だか分からなかったけれど、<br />
見覚えがある愛嬌のある笑顔で思い出した。</font></p>
<p><font color="#000000">「吾妻さん」</font></p>
<p><font color="#000000">わたしが識別した事にほっとしたのか、<br />
「久しぶり」と少し落ち着いた声で言った。</font></p>
<p><font color="#000000">「本当に久しぶりですね。その荷物、家に帰ってたんですか？」<br />
<br />
吾妻さんはウチに住んでいる高校生。<br />
確か今月から三年生になる。<br />
背中に大きなスポーツバックを一つ背負い、<br />
そして両手にも重量がありそうな鞄と紙袋をそれぞれ持っていた。</font></p>
<p><font color="#000000">「春休みだから帰らないと母親がうるせえの。こんなに荷物も持たされたし」</font></p>
<p><font color="#000000">吾妻さんのお母さんは美人だ。<br />
こっち方面に来る度にウチに寄ってくれる。<br />
旅行だという口実で本当は吾妻さんの顔を見たいからだという事は知っている。<br />
とてもやさしい人だ。</font></p>
<p><font color="#000000">「母親から彩七ちゃんにお土産あるから、後で渡すな」</font></p>
<p><font color="#000000">ありがとうございます、とお礼を告げる。<br />
吾妻さんのお母さんは松永家だけでなく、わたしにも度々贈り物をしてくれる。<br />
以前あまりに申し訳なくて断った事があるが、<br />
「娘がいるようで嬉しいの」と、とても嬉しそうな顔をしてくれたので、<br />
それ以降は感謝を告げて素直に頂くことにしている。<br />
その代わりと言ってはなんだが、毎年年賀状の遣り取りもしているし<br />
修学旅行のお土産も手紙を添えて送った。<br />
吾妻さんのお母さんという認識よりも、親戚の人という感じだ。</font></p>
<p><font color="#000000">それから、と思い出したように吾妻さんは小さな袋をわたしにくれた。<br />
中身はキーホルダーだった。</font></p>
<p><font color="#000000">「東京タワーですか？」</font></p>
<p><font color="#000000">わたしがいるこの県にもタワーはあるが、<br />
これはドラマなどで目にした事のある形だ。<br />
そうだよ、と吾妻さんはやさしく答えてくれた。</font></p>
<p><font color="#000000">「ちょっと東京行ってたから俺からのお土産」</font></p>
<p><font color="#000000">吾妻さん東京に行って来たんだ。<br />
吾妻さんの実家からそんなに遠くないし、遊びに行ったのかな。<br />
なぜ、と理由を訊こうとしたが口を詰むんだ。<br />
そうだった、吾妻さんは三年生になるんだ。<br />
三年生、つまり受験生だ。<br />
地方のこんな郊外にあるけれど、彼らは有名進学校の生徒だ。<br />
あの学校からは毎年大勢の人達が<br />
誰もが耳にしたことのある有名大学に進学している。<br />
きっと志望校の下見も兼ねて訪れたのだろう。</font></p>
<p><font color="#000000">「東京行くんですか？」</font></p>
<p><font color="#000000">わたしがそう訊ねると、まだ分からないと吾妻さんは答えた。<br />
まだ先の話だし、と笑ってくれたけれど現実はもうすぐそこに来ていた。<br />
みんなどこかへ行ってしまうのだ。</font></p>
<p><font color="#000000">「彩七ちゃんこそ、どこか出かけてたの？」</font></p>
<p><font color="#000000">吾妻さんにはさすがに負けるけれど、<br />
わたしもそこそこ大量の荷物を持っていた。<br />
久々に街中へ行ったので、つい買い過ぎてしまった。</font></p>
<p><font color="#000000">「友達と買い物に行ってて。<br />
新学期の準備とか、他にも欲しい物がいっぱいあったので」</font></p>
<p><font color="#000000">新しい筆箱、新しいポーチ、新しい鏡、新しい手帳。<br />
わたしのすきな物が揃った新生活。<br />
なぜ新学期には持ち物を新調したくなるのだおうか。<br />
高校祝いということで、今日は自分につい甘くなってしまった。</font></p>
<p><font color="#000000">「そう言えば、高校生になるんだよね。早いな、あの彩七ちゃんが」</font></p>
<p><font color="#000000">なにか考えるようにしみじみと喋る吾妻さんに、<br />
「あの彩七ちゃん、ってなんですか？」と軽く突っ込むと、彼は笑った。</font></p>
<p><font color="#000000">ウチは白学専用の下宿屋だけれど、原則として高校生からしか受け入れていない。<br />
生徒の大半が親元を離れて来ているので、もちろん学校には学生寮が完備してある。<br />
しかし、どうしても寮生活が合わない人が出てくる。<br />
校則だったり人間関係だったり、悩みは人それぞれだ。<br />
そういう人達を受け入れているのが我が家だ。<br />
ウチと同じように下宿屋は他にも何件かあるのだが、<br />
ウチだけが高校生からの受け入れだと決めている。<br />
なぜそうなのかは分からないが、誰も口にしないのでこれが話題に上ることはない。</font></p>
<p><font color="#000000">ただ、吾妻さんだけは例外であった。<br />
詳しくはよく知らないが、中学一年の時に領内でトラブルに巻き込まれ、<br />
それ以来ウチで暮らしている。<br />
当時なにがあったのか気にならないわけではないが、<br />
知ったところでどうしようもないし、<br />
そのおかげで吾妻さんと出会えたのだから感謝している。<br />
だけど今では一番付き合いが長い分、来年彼が卒業するのが嫌だ。</font></p>
<p><font color="#000000">「バス来た」</font></p>
<p><font color="#000000">我が家のすぐ傍を通るバスがやって来た。<br />
平日は一時間三本、休日は一時間に二本しかない不便な場所だ。</font></p>
<p><font color="#000000">吾妻さんの横顔を見る。<br />
ちょっとだけ変わったような気がするけれど、ほとんど前と一緒だ。<br />
頻繁に顔が変わったら困るのだが。<br />
だけどなぜさっき一瞬だけど分からなかったのだろう。<br />
声色や雰囲気は全然変わっていないのに。<br />
頬のところが少し痩せたからかな。</font></p>
<p><font color="#000000">彩七ちゃん、と突然名前を呼ばれる。<br />
思わず「はいっ」と過剰な反応をしてしまった。<br />
先にどうぞ、と吾妻さんが乗車する順番を譲ってくれる。<br />
そんなちょっとした女の子扱いに少なからずドキッとしてしまう。<br />
高校生になるのが楽しみな理由、<br />
それはこんな風な素敵な好きな人を見つけたいからなのかもしれない。</font></p>]]>
    </description>
    <category>彩り</category>
    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E5%BD%A9%E3%82%8A/-03.</link>
    <pubDate>Thu, 25 Mar 2010 03:35:45 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/19</guid>
  </item>
    <item>
    <title>*02.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">チャランチャランチリン</font></p>
<p><font color="#000000">携帯電話の着信音が聞こえる。<br />
こんな朝っぱらから誰だろう？<br />
重い瞼を半分まで開け、ディスプレイに映る名前を確認する。<br />
<br />
「なに？」<br />
<br />
人の安眠妨害しやがって。<br />
思いっきり不機嫌な声を出す。<br />
作りもなにもしない、出るがままの声。<br />
<br />
「あんた今何時だと思ってんの。いい加減起きなさい」</font></p>
<p><font color="#000000">うるさく、耳障りな声。<br />
この狂った九官鳥のような声の主はお母さん。<br />
いくら声が響かないようにと携帯電話を使って話しても、<br />
彼女の場合あまり変わらない気がする。<br />
<br />
適当に相槌を打って一方的に電話を切る。<br />
朝からうるさくてやってらんない。<br />
そう思って二度寝を試みようとするが、再び着信音が鳴り出す。<br />
もちろん着信元は狂った九官鳥。<br />
わざとらしく深い溜め息をつき、観念して重い体を起こす。<br />
このまま無視していたら後が怖いからだ。<br />
<br />
「着替えてから降りてきなさいよ」<br />
<br />
顔を見るなりこの言葉。<br />
なんでトイレに行く前に着替えなければならないのか。<br />
生理現象には逆らえない。<br />
<br />
「自分の家なんだからいいじゃん」</font></p>
<p><font color="#000000">面倒くさー、と呟きながらトイレに入る。<br />
文句言うなら二階にもトイレを設置して欲しい。<br />
向こうの学生寮の方にはあるのに。<br />
更年期か知らないが、最近お母さんは前にも増して妙にカリカリしている。<br />
お願いだからこっちに当たらないで欲しい。<br />
<br />
「早く着替えてよ、今日は出入りが多いんだから。<br />
いつまでもそんな恰好してたらみっともないでしょ」<br />
<br />
顔を洗っているとまた後ろから文句を言われる。<br />
なんで人の出入りが多いのだろうか。<br />
お客さんが来る予定でもあるのだろうか。</font></p>
<p><font color="#000000">「今日なんかあるの？」</font></p>
<p><font color="#000000">素朴な疑問を投げかけると、「バカ」と罵声を浴びせられた。</font></p>
<p><font color="#000000">「今日は新入居者が来る日って何回言った？」</font></p>
<p><font color="#000000">ほらまた怒る。<br />
ただ訊いただけなのになんでそんなに怒るのかが分からない。<br />
これだから五十前のおばさんは怖い。<br />
しかも「こんなんだから赤点なんて取るのよ」と<br />
関係ないことまで言い出してきた。</font></p>
<p><font color="#000000">「赤点は社会だけだもん。それ以外は全部学年上位ですー」</font></p>
<p><font color="#000000">わざと大きな声で反論するが、声が返ってこない。<br />
聞いちゃいないのだろう。<br />
今日は忙しいのは事実らしい。<br />
さっきからお母さんがあちらこちら急いで歩き回っている。<br />
よく働くな、と我が母親ながら感心する。<br />
邪魔にならないよう、これ以上文句を言われないうちに、<br />
静かに自分の部屋へ戻った。</font></p>]]>
    </description>
    <category>彩り</category>
    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E5%BD%A9%E3%82%8A/-02.</link>
    <pubDate>Thu, 25 Mar 2010 03:19:49 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/18</guid>
  </item>
    <item>
    <title>*01.</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">我が家は、お父さんのお祖父ちゃん、<br />
つまりわたしの曾祖父ちゃんの代から下宿屋を営んでいる。<br />
そして我が家から十分ほど歩いた先には私立の男子校がある。<br />
その男子校は白須波学院と呼ばれ、この地方では名の通った有名進学校であり、<br />
中学から親元を離れて通っている人が数多くいる。</font></p>
<p><font color="#000000">勘の良い人はもうお気付きだろう。<br />
ウチはその男子学生専用の下宿屋なのだ。</font></p>
<p><font color="#000000">この家で生まれ育ち、早十五年。<br />
わたしはこの春から高校生になる。</font></p>
<p><font color="#000000">ずっと高校生はおとなだと思っていた。<br />
幼稚園児だった頃、わたしはウチに下宿していた<br />
お兄ちゃん達によく遊んでもらっていた。<br />
まだ学生ではないわたしから見れば、小学生ですら大きな存在だったし、<br />
その上の上の学校に通っているなんて、全く想像もつかなかった。</font></p>
<p><font color="#000000">中学受験をし、わたしは電車で三十分近くかかる女子校に進学した。<br />
親は寮がある学校を希望していたが、わたしは頑として受け入れなかった。<br />
家が下宿をしていてなにが悪いのか。<br />
わたしは下宿しているお兄ちゃん達が好きだったし、<br />
実家が下宿屋をしていることに誇りにさえ思っていた。</font></p>
<p><font color="#000000">しかし中学に入学して気付いたことがある。<br />
それは周りの、特に多感な年頃であるわたし達にとって、<br />
家族以外の異性と一緒に暮らすのはとても大きなことだということ。<br />
みんなわたしが考えているよりも遥かに敏感で繊細だったのだ。</font></p>
<p><font color="#000000">自分が悟ったことを関東に住んでいる姉に電話で話すと、<br />
「だから私立受験したんじゃん」と、いかにもそれは当然で<br />
「今頃気付いたの？」とでも言いたさそうな口振りだった。</font></p>
<p><font color="#000000">「あんたは知らないかもしれないけど、<br />
あたしが中二の時に家出てこっち来たのだって周りがとやかく言うからだよ。<br />
白学の彼氏がいるとか毎日やり放題とか、変な噂ばっかり流されて」</font></p>
<p><font color="#000000">地元の公立中学に通っていた姉が、<br />
突然関東にある寮がある中学校に編入した理由がやっと分かった。<br />
大好きな姉がいなくなるのが嫌だったから、<br />
当時わたしはあの手この手で必死で彼女を引き留めようとした。<br />
それでも姉は、「またね」と家を出て行ってしまった。<br />
哀しみを残した、希望に満ちた顔で。</font></p>
<p><font color="#000000">確かに姉は、中学に入学してからだんだん口数が少なくなっていった。<br />
元々おとなしく、控え目な性格だったからそんなに不思議には思わなかったが、<br />
やはり今思い返せば少し異常だったのかもしれない。<br />
ふとした瞬間に暗い影を落としていたけれど、<br />
わたしが声を掛ければいつものように明るい笑顔で答えてくれたし、<br />
ただ疲れているのだろうとしか思わなかった。</font></p>
<p><font color="#000000">わたしが住む地域が田舎だからなのか、<br />
それとも学校から遠いからかは分からないけれど、<br />
幸運にもわたしのことを知る人は今の中学にはいなかった。<br />
わたしが実家について誰かに話す前にこの雰囲気に気付いたので、<br />
わたしは今でも誰にも知られずに静かに学校生活を送っている。<br />
小学校の時とは違って県内各地から来ている人が多いので、<br />
地元のように誰かの家に集まって遊ぶというのも頻繁にないので、<br />
きっと実家のことを誰も知ることもなく卒業できるだろう。</font></p>
<p><font color="#000000">話はだいぶずれてしまったが、<br />
わたしは高校生になることをとても楽しみにしていた。<br />
やさしかった、大すきなお兄ちゃん達と同じ目線に<br />
立てることが嬉しくもあり、ずっと憧れてだったのだ。</font></p>]]>
    </description>
    <category>彩り</category>
    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E5%BD%A9%E3%82%8A/-01.</link>
    <pubDate>Thu, 25 Mar 2010 03:07:36 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/17</guid>
  </item>
    <item>
    <title>あなたの鼓動 あとがき</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>明日は彼、話の中に出てくる友達が日本に発ちます。<br />
本当に彼にはずっとお世話になっていて、<br />
淋しくてしょうがありません。<br />
だから明日の予行練習にこの話を書いてます。（笑<br />
<br />
ぶっちゃけ、まだ後半書き終わってません。<br />
どうしよー、って。<br />
勝手な妄想だけど、どうしても話が思い付きません。<br />
・・・っていうのも、自分がどうしたいか分からないからです。<br />
<br />
読んでる人には分かりづらいと思うので、ちょっと補足を。<br />
<br />
現在あたしはカナダにいます。<br />
留学生って言ったら響きは恰好良いけど、ただ就活から逃げてるだけです。<br />
<br />
彼とは同じ英語の学校で会いました。<br />
あたしが１週間早く入校し、それからずっと一緒でした。<br />
元々日本人があたし達しかいない環境だったので、普通に仲良くなりました。<br />
<br />
これはあたしの言い分であり、彼がどう思ってたかは分からないけど。<br />
<br />
とにかくそんな関係。<br />
友達以上にはすごく大事だけど、恋愛感情としては分からない。<br />
でもね、手放したくないんだ、単純に淋しいから。<br />
<br />
でもそれはあたしの甘え。<br />
だから自分がどうすれば良いか分からない。<br />
<br />
ただ彼に感謝の気持ちでいっぱいです。<br />
<br />
さっき電話がかかってきて、結局タクシーで行くらしいです。<br />
でも一緒に来て良いってお許しが出たので、８時に会います。<br />
<br />
告白・・・・・・？<br />
<br />
でも本当にそういうのは分からなくて。<br />
いつかまた会う機会があったら、「好き」って実感するのかもね。<br />
<br />
でも淋しい、離れたくないんだ。<br />
<br />
明日どうなるかは分からないけど、今から後半の続き書きます。<br />
妄想でも、彼らには幸せになって欲しいです。<br />
<br />
自己満にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。<br />
<br />
<br />
<span style="font-family: Comic Sans MS"><font color="#000000">- - November 10, 2009　　tomoyo* - -</font></span><font color="#000000"><br />
<br />
<br />
<br />
<a href="http://bellxtree.blog.shinobi.jp/Category/4/">短編・トップ</a></font></p>]]>
    </description>
    <category>短編</category>
    <link>http://bellxtree.blog.shinobi.jp/%E7%9F%AD%E7%B7%A8/%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AE%E9%BC%93%E5%8B%95%20%E3%81%82%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%8D</link>
    <pubDate>Tue, 23 Mar 2010 06:24:45 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">bellxtree.blog.shinobi.jp://entry/10</guid>
  </item>
    <item>
    <title>あなたの鼓動 後編</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><font color="#000000">もう二十回も繰り返した季節なのに、<br />
なんでひとつひとつの記憶が新鮮で、なにひとつ同じものはないんだろう。<br />
<br />
春ってあんなに肌寒かったっけ？<br />
雪なんて降って凍えることってあったっけ？<br />
あんなに晴れ晴れとした空が広がってたっけ？<br />
<br />
夏ってあんなに日差しが痛かったっけ？<br />
突然の大雨の中、あんなに街中を走ったことあったっけ？<br />
毎日のように誰かと遊ぶことってあったっけ？<br />
<br />
夜に呼び出して、誰かと話すことってあったっけ？<br />
よく分からない気持ちにもやもやしたことってあったっけ？<br />
誰かを守ってあげたい、って思ったことあったっけ？<br />
<br />
この少しの期間に、あなたはたくさんのものをくれた。<br />
わたしはこれらの季節から縛られたまま、しばらく解放されそうにないみたい。<br />
<br />
「さっきの人見た？　睫毛メッチャ長かったよ」<br />
<br />
斜め前に座っていた男性の顔がきれいで、それを彼に伝えたかった。<br />
すぐに反応がなかったので「どうでも良い情報？」と訊くと、「別に」と短い答え。<br />
本当にくだらないことしか言えない自分、伝えたいことはもっとたくさんあるのに。<br />
なんで素直に言葉にできないのかな。<br />
<br />
無事に預け荷物のチェックも終わり、わたし達に残されたのはチェックインのみ。<br />
<br />
「ねえ、泣いて良い？」<br />
<br />
沈黙に耐え切れなくなって、本当は全然耐えれるんだけど、でもダメだった。<br />
あなたが行っちゃう。<br />
それがずっと、帰国日を知らされて以来頭の中から消えない。<br />
<br />
「どうぞ」<br />
<br />
やさしいような、突き放すような。<br />
それが彼なんだけど、時々淋しい。<br />
わんわん泣きめいてやろうと思ったけど、ぽろぽろと静かにしか雫は落ちない。<br />
<br />
「ねえ、なんで帰るの？」<br />
<br />
何度も何度も既に投げかけた質問。<br />
きっと彼ももう飽き飽きだろうね。<br />
分かってるけど、でも訊かずにはいられないの。<br />
だって、嫌なんだもん。<br />
<br />
「自分だって帰りたくないけど、しょうがないさ」<br />
<br />
しょうがない。<br />
便利なのか、良くない言葉なのか、よく分からない。<br />
しょうがないで片付けて欲しくない。<br />
しょうがない、のひと言で片付くような関係だったのかな。<br />
<br />
静かに頬をつたるしょっぱい液体。<br />
本当にここに来て何度涙したのだろう。<br />
誰か、友達と出会っては別れる度に泣いていた。<br />
<br />
わたしばかりが泣くもんだから、周りの子にいつも訊いた。<br />
「泣かないの？」って。<br />
そしたら、「男は泣かない」ってみんな言った。<br />
<br />
だからきっと彼は今泣かない。<br />
<br />
「最後にいつ泣いたの？」<br />
<br />
言葉になってるか不安だったけど、それでも一生懸命言葉を発した。<br />
「いつだったかな・・・」って、考えるようにゆっくりと発する彼のひと言。<br />
<br />
嫌だ。<br />
嫌だ。<br />
嫌だ。<br />
<br />
行かないで欲しい。<br />
<br />
ぎゅってできれば良いのに。<br />
「抱きしめて良い？」っていつもみたいに訊けば良いのに。<br />
それができないのはわたし達が日本人だから。<br />
わたし達がこんな関係だから。<br />
<br />
「日本帰ったら連絡するよ」<br />
<br />
そんな言葉信じない。<br />
わたしもマメじゃないし、彼だってマメじゃない。<br />
メールじゃ嫌なの。<br />
今傍にいてもらわなきゃ嫌なんだって。<br />
<br />
あなたの鼓動を、この微妙な二人の距離で感じたいの。<br />
<br />
ねえ。<br />
行かないで欲しい。<br />
<br />
何度も口にした言葉。<br />
どうしようもないのは分かってる。<br />
でもね、嫌なものは嫌なの。<br />
<br />
ごめんね、こんなわたしで。<br />
<br />
ぎゅってしても良い？<br />
<br />
やっぱりハグしたい。<br />
離れたくない。<br />
あなたの鼓動を、すぐ傍で、一番近くで感じたい。<br />
<br />
訊こう訊こうと思ってダメだった。<br />
だからね、不意打ち。<br />
<br />
すっと椅子から立ち上がって。<br />
目の前に突っ立ってた彼に、ぎゅーって。<br />
初めてのこと。<br />
<br />
これが初めてなんて淋しい。<br />
今から始めたいのに。<br />
なんでこれが最初で終わりなんだろう。<br />
<br />
遅過ぎたのかな・・・・・・。<br />
<br />
ごめん、胸当たってる？<br />
不快な思いさせてたらごめんね。<br />
<br />
でも、今だけはくっ付いていたいの。<br />
少しも隙間を空けたくない。<br />
だって隙間を空けても、あと数分経っても、<br />
あなたがわたしの前から離れてしまうから。<br />
<br />
好きとか嫌いとか。<br />
友達だとか恋人だとか。<br />
<br />
そういう言葉はどれも当てはまらない気がするの。<br />
ただね、こう言いたい。<br />
<br />
あなたが愛しい。<br />
<br />
ただそのひと言がぴったりで。<br />
わたしにとって大切な人。<br />
家族とはカテゴリーが違うけど、レベルで言ったら同じくらい。<br />
<br />
口には出せないけど。<br />
あなたに渡した手紙に、「大切な人」って書いたから。<br />
<br />
わたしのあなたに対する感謝の気持ち、伝わると良いな。<br />
いくら言っても足りないけど、本当に本当にありがとう。<br />
<br />
微妙な距離だったわたし達。<br />
いつもあなたの鼓動は遠かったり、すぐ傍にあったり。<br />
不安定だった。<br />
それが不安だったり、安心したり。<br />
あなたは本当にわたしのビタミン剤だった。<br />
<br />
でもね、もうひとりで歩くから。<br />
あなたはもういない。<br />
ひとりでも頑張るよ。<br />
<br />
また今度、いつか会う機会があるならば、<br />
もっと成長したわたしを見てください。<br />
あなたに頼らなくても、頑張れたわたしに会ってあげてください。<br />
<br />
今度は自分の気持ちがはっきりしてると思うから。<br />
この距離は心地良いけど、ずっと一緒じゃいられないもんね。<br />
<br />
さよなら、って。<br />
言いたくないけど。<br />
<br />
またね、って。<br />
言っちゃいそうだけど。<br />
<br />
涙でなにも言えなかったよ。<br />
<br />
ただ、「ありがとう」って伝えた。<br />
大きく手を振った。<br />
<br />
あなたはわたしみたいに手は振ってくれなくて。<br />
振り返ることなく、すぐにゲートに行っちゃったけど。<br />
それがあなただと覚えておく。<br />
<br />
本当に本当にありがとう。<br />
<br />
またあなたの鼓動を感じる時まで、わたしは大丈夫。<br />
たくさんのありがとうを、本当にありがとう。<br />
決して言葉では言い尽せないほどの感謝をくれた人。<br />
<br />
あなたは、わたしにとってとても大事な人でした。</font><br />
<br />
<br />
<br />
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    <category>短編</category>
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    <pubDate>Tue, 23 Mar 2010 06:22:05 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>あなたの鼓動 前編</title>
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    <![CDATA[<p>一昨日会ったばかりなのに、しばらく会ってなかったような気がした。<br />
<br />
緑を基調としたチェックのシャツに紺のカーディガン、<br />
見覚えのある膝に穴の開いたジーンズ。<br />
そしてこの７ヵ月間ずっと履いているクリーム色の靴。<br />
<br />
普段と特に変わらない恰好なはずなのに、こんなに彼の姿を愛しく思うのは、<br />
きっと今日でさよならをしなければいけないからだ。<br />
<br />
「おはよう」<br />
<br />
待ち合わせ１０分前。<br />
いつもオンタイムのあなた。<br />
わたしも同じＡ型のはずなのに、<br />
いつもｉ－Ｐｏｄを片手に待ち合わせ場所の前にあなたを突っ立たせてしまう。<br />
<br />
でもね、今日は違うよ。<br />
２０分前には既にここにいたんだ。<br />
実際は１時間前には到着していて、ちょっと歩いて近くの港に行った。<br />
辺りはまだ薄暗く、普段の景色とは全く違っていた。<br />
<br />
あの場所には何度足を運んだことだろう。<br />
春、夏、秋。<br />
たった数ヵ月の間なのに、たったひとつの場所なのに。<br />
なんでこんなに思い出すものが溢れてくるのだろう。<br />
<br />
さっきはまだ大丈夫だった。<br />
だって、今あなたに会えるって知ってるから。<br />
でも「バイバイ」を告げた後、ここに来れる自信はない。<br />
<br />
「おはようございます」<br />
<br />
なぜか敬語。<br />
あたしもたまに敬語だけどね。<br />
なんか年上なのに変なの、思わずくすっと笑う。<br />
<br />
彼はスーツケースひとつ、わたしはスポーツバックを持って地下鉄に乗り込む。<br />
わたし達の間には沈黙が続く。<br />
<br />
たったこんだけの荷物なんだ。<br />
もちろんまだ荷造りなんて始めてないけど、<br />
きっとわたしの荷物はスーツケース２つでも収まり切れない。<br />
男の子って基本的にこんなものなのかな？<br />
さっき「荷物少ない」って言ったら、「こんなもんでしょ」って。<br />
いつも通りのゆっくりとした口調。<br />
わたしはよく早口だと周りから言われるから、ちょっと羨ましい。<br />
土地柄かもしれないけど、わたし達は結構正反対のことが多い。<br />
本当によく七ヵ月も一緒に過ごせたのかが不思議だ。<br />
<br />
彼を見つめる。<br />
なんとなく、今日が見納めな気がして。<br />
ふと、昨夜家のオーナーが言ってたことを思い出す。<br />
<br />
「日本でも恰好良いってよく言われる？」<br />
<br />
素朴な疑問、ずっと訊いてみたかったんだよね。<br />
酔ってはないけど、この際だから訊いてみる。<br />
オーナーだけじゃなくて、結構みんな彼の外見に対して好評価をくだす。<br />
<br />
わたしの質問に彼は苦笑い。<br />
そりゃそうか。<br />
むしろ「うん」とか頷かれた方がひくか。<br />
<br />
確かに、恰好良いと思う。<br />
一重だけど瞳が大きく、鼻筋がすうって通っていてきれい。<br />
ガリってわけじゃないけど程々に細いし、でも筋肉もあって。<br />
<br />
彼の、最初の印象って忘れちゃった。<br />
だってもう半年以上前のことだし。<br />
ただ、今もまだ取っ付き難いイメージは消えてないし、<br />
相変わらず喋りにくいこともあるけどね。<br />
<br />
出会いから変わることのない、沈黙の比率が多いわたし達。<br />
<br />
近いような遠いような、そんな関係。<br />
すぐ手を伸ばせば触れるのに、それをしないのがわたしの可愛くないところ。<br />
<br />
すぐ傍に彼の気配を感じる。<br />
新陳代謝良いんだろうね、なんか熱気を感じる。<br />
それも彼っぽくて、ひとりで笑ってみる。<br />
でも心の中で笑い過ぎて、瞳に涙が溜ってくる。<br />
<br />
「日本まで何時間だっけ？」<br />
<br />
気付かれないように前を向く。<br />
彼はｉ－Ｐｏｄのカーソルを動かしながら「１４、５」と答える。<br />
<br />
日本とここの時差は１４時間。<br />
これって長いのかな、短いのかな。<br />
時差よりもわたし達の距離が遠くなっていくのが怖い。<br />
<br />
ダウンタウンとは逆方向に向かっているせいか、<br />
平日とは言え車内はそんなに混んでいない。<br />
何十回、何百回と一緒に地下鉄に乗ったけど、今日でもう最後。<br />
<br />
最後最後だと思ってるわりには、全てにおいて実感がない。<br />
数時間後、ここでぼろぼろ泣いてる自分が確実にいる。<br />
<br />
そろそろ終点。<br />
地下鉄を出たら、空港に行くバスに乗り越える。<br />
そしたら数十分で目的地に到着。<br />
<br />
わたしに残された時間はあと少し。<br />
あなたの鼓動を感じられるのも、ほんの数えるほどしかない。<br />
<br />
今のわたしに、なにができるのだろうか。<br />
<br />
<br />
<br />
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    <category>短編</category>
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    <pubDate>Tue, 23 Mar 2010 06:16:12 GMT</pubDate>
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