六月六日は高校の文化祭であると同時に、優絵の彼氏である坂井くんの誕生日だ。
坂井くんもこの高校を受験したのだが、
希望していたわたしや優絵がいる特進クラス選抜に洩れてしまった為、
地元の公立高校に進学してしまった。
「おかえり」
昼休憩を終えて教室に戻ると、クラスのみんなとは違った制服を着ているが、
すっかりこの場に馴染んでいる人影があった。
開いた口が閉まらない。
こういうことを指すのだろうか。
突然彼の登場に、わたしも優絵も教室に入れずにいた。
「ここでなにしてるの?」
先に口を開いたのは優絵の方。
優絵も彼が来ることは知らなかったようで、驚きを隠せない様子。
「なに、って文化祭に来たんだけど」
優絵の疑問にけろっとした顔で答える。
文化祭に来たんだけどなにか問題でも、とでも言いたそうに。
「だって今日は部活あるから会えないって、電話で・・・・・・」
周りのギャラリーを気にしてか、優絵の口を動きが止まった。
「言いかけられると、気になるんだけど」
決して怒っている口調ではなく、
むしろ煽るような坂井くんの言葉に優絵は顔を真っ赤にし、
着なれない衣服に構うことなく、走るように教室を出た。
彼女を追いかけようと続いて教室を出ようとしたら、「待った」の声がかかった。
「もう交代の時間なのに、売り子が二人も抜けたら困るって」
そうわたしに注意するのは同じクラスの藤木。
今回クラスの出し物のチーフ的存在で、会計を担当している。
藤木も同じ奥薗中学出身で、わたしと優絵とは中三の時に同じクラスだった。
「そうだけど、優絵のことが気になるし」
そうわたしが言った時、
「おれが行くから」とぽんっと坂井くんがわたしの肩を叩いて立ち上がった。
「元々はおれのせいだし。
なだめて来るから、南澤はここで仕事してて」
「な?」と念を押した後、特に急ぐ様子もなく、優絵が走って行った方向に歩いて行った。
「なんか格好良くなったよな、あいつ」
思わず藤木の声に頷く。
確かに前から恰好良かったけど、なんていうか、貫禄が出てきたって感じだ。
焦っているわけでも冷めているのでもなく、余裕が滲み出ているのが分かる。
十五、六であれだけの人はあまりいないのではないだろうか。
友達の彼氏なのに、一目見ただけで惹かれてしまう自分は本当に不謹慎な女だ。
「ねえ、遅くない?」
二人が行ってしまったからもうすぐ二時間が過ぎようとしていた。
ピークも過ぎ、客足も徐々に少なくなってきた。
「仲直りでもして、よろしくやってんじゃない」
商品である餡蜜を口に運びながら、売り上げを数える藤木。
いかにも興味なさそうな態度。
文化祭終了まであと一時間弱。
ローテーションを組んでの店番だったはずだが、
久々の友人との再会やお祭りムードに流されたのか原因は分からないが、
結局当番制を守ったのはごく少数で、
午後の部はわたしと他数名がボランティアでなんとか回した。
もちろんサボりの多くは、奥中出身の生徒だとは言うまでもない。
最後の客が出て行き、教室にはわたしと藤木、それから松本さんと江上さんが残った。
客も出払ってすることがなくなったので、女子二人に銃に遊びに行くようにと促すと、
一瞬躊躇していたようだが、「お疲れさまです」と嬉しそうに出て行った。
「他校生は腰が低いよね」
二人を見送りながらなんとなく思った。
考えてみれば、自分の時間着でも手伝ってくれたのは、
ほとんどが奥中出身以外の生徒だった。
奥中出身の子はまとまりはあるが、責任感はゼロに等しい。
「そうだな」と、科学雑誌を読みながらの生返事。
本当に藤木は昔から他人に興味がなさそうだ。
「そう言えばさ、中学の時に一時期噂あったよね。
藤木と優絵が付き合ってる、って」
腐れ縁とはこういうことを言うのだろか。
わたしと優絵、それから藤木は中学一年の時から四年間ずっと同じクラスだ。
ヒラカワとフジキ。
二人の出席番号は近く、なにかと二人が喋っていたのが記憶に残る。
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